内装がボロボロになって、ところどころトタン板がむき出しになった小屋。
冬の夜は、いくら火を焚いても寒いので、入り口にも窓にも毛布や厚手のカーテンを垂らしていました。
それでも外で風が吹くと、ランプの灯が揺らぎ扉がバタンバタンと音を立てていました。
部屋に一つのランプの灯りの下、薪ストーブの周りには額を寄せ合う8人の親子。
そんな暮らしが、確かにありました。
お風呂場には外の風が吹き込み、トイレは氷点下の家の外。
家の中だというのに、白い息を吐きながら飯を食っていることもありました。
でもそんな生活の中にも、豊かさを感じる瞬間がいっぱいありました。
薪が良く燃えて、ヤカンから湯気が立ち上るのを見ているだけで、幸せな気分になれたものです。
夜半、用を足しに氷点下の外に出て行くと、どんなイルミネーションも及ばぬ満天の星空だったり、雪化粧した山や森を照らす月光白夜だったり・・・。
漆黒の闇夜もまた、妙に感動的でした。
その頃、街に住む人を訪ねると、暖かくて明るくて快適な家の中。
お風呂もトイレも何もかもが行き届いていて、頭で分かっていてもいつも新鮮な驚きを味わったものです。
もう20年以上も前のことになってしまいました。
でもあの時の記憶は、この先死ぬまで消えることはないと思っています。