2017年5月の記事ですが、「スコーンの糸挽き引き現象について」という報告をしています。
その後どうなったかについて、報告しないまま時間が過ぎてしまいました。
私の勉強不足もあって、正確な原因が分かったのは、割合最近になってからのことです。
糸引き現象は、業界では「ロープ現象」と呼ばれ、バチルス菌という細菌によって生成されます。
納豆菌とは類縁の細菌です。
環境には普遍的に存在しており、製造現場の空気中にも浮遊しています。
また小麦粉そのものにも、数種類のバチルス菌が存在することが分かっています。
原材料から生地を経て焼き上げ、冷却に至るまで、すべての工程がバチルス菌汚染のリスクに晒されています。
しかも、バチルス菌は150℃まで耐えるので、オーブンによる焼成の温度でも死滅しません。
バチルス菌のリスクを除去することは大変困難です。
それでその後、食工房がどういう対応を取って来たかと言うと、製造現場の衛生管理をより徹底したこと、賞味期間を夏、春秋、冬で変更し、夏場は特に短く1週間としました。
ちなみに冬は、1ヶ月です。
この対応で、ほぼクレームは発生しなくなりましたが、原因についての核心が掴めていなかったので、いつも若干の不安がありました。
しかし、ごく最近になって多くの情報に触れることが出来、一挙に学習が進みました。
それによると、バチルス菌を抑制するためには、生地、製品のpHを低く保つこと(pH=5.0~5.5)が重要と分かりました。
業界では、添加物の使用が推奨され、特に酢酸ナトリウムあるいは酢酸そのものの有用性が報告されています。
そこで思い当たるのですが、食工房では膨張剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)とりんご酢(酢酸を含む)を反応させて炭酸ガスを発生させています。
この時の反応で、微量の酢酸ナトリウムが生成されますので、当然これによる殺菌効果が期待出来ます。
ただし、製品のpHを正確に測ることまではしていなかったし、そのような殺菌のメカニズムについても無知でした。
とは言え最近は、重曹臭さを回避するために、りんご酢を規定量より若干多くしていましたが、これがpHを下げることに貢献したものと思っています。
こうした対応が功を奏したのか、スコーンに対するクレームは、最近では一件も発生していません。
今後はなお念を入れて、定期的な品質テストを行うこと、製品pHを正確に設定することなどを実現していきたいと考えています。