これまで、獣が住んでいるのは専ら山の中で、獣害はそこに近い農山村特有の現象だと理解されて来ました。
しかし近年、皆さまもご存じのとおり、多くの人が生活しているはずの領域にも、獣たちが頻繁に出没するようになり、害を及ぼす事例が後を絶ちません。
大きいものでは、クマ、イノシシ、シカ、サルなど、小さいものではタヌキ、イタチ、ハクビシンなど、種類も個体数も増加傾向にあります。
さて、私の居住地である当集落は、いわゆる中山間地であり、獣の出没や被害に関しては先進地です。
もう十年以上も前から農地へ被害が顕著になり始め、今では対策無しにはどんな作物も作ることが出来ません。
電気柵はその筆頭に上げられる対策で、確実な効果がありますが、維持管理には多くの時間と手間がかかります。
また設置困難な場所もあり、決して万能ではありません。
また、爆音花火(動物追い払い用煙火)やロケット花火、爆竹などを用いて追い払いもしていますが、直ぐに学習されてしまうので、やらないよりはずっといいですが効果は限定的です。
そして最終的手段として、罠を仕掛けて捕獲、駆除も進めていますが、到底被害が無くなるまでには至りません。
結果、この先ずっと、獣たちとの戦いが日常化することを受け入れたというのが、私や周りの方々の獣害対策の現在地です。
そんな状況下で、ここ20年くらいを過ごして来た私が気が付いていることがいくつかありますので、お話し申し上げます。
近年、動物愛護の世論が功を奏してか、野生動物の個体数は種類を問わず増加傾向にあります。
彼らは、それぞれに生存の場所を求めて生息領域を次々と広げています。
そして行く先々で、人間と出会い軋轢を生じます。
一方、凡そどんな種類の獣についても言えることですが、出没に対応して何らかの対策をすれば、より対策の弱いところあるいは未対策のところへと移動して行く傾向があるということです。
それらのことから分かるのは、都会の住宅地などでは、獣害対策はまずやり難いということが一つ、それから人々の意識もなかなかそちらには向かないだろうということ、そうした理由から獣たちにとって都会に生息するのは容易いことだと映る可能性があるということです。
一方、都会に暮らす方々は、獣害対策など警察や行政のすべきことと考えるでしょう。
自分たちの出来ることなど、ほとんど何もないと感じるでしょうから。
しかし、先進地の我々は分かっています。
それでは、獣害対策はうまく行きません。
やはり、そこにいる住民の方々が自分のこととして行動しないことには、何の成果も上がらないでしょう。
それらのことを総合すると、都会は今被害の洗礼を受け始めたところであり、これから深刻さが増して行くものと思われます。
世論や法律が変わるまで、その解決は困難を極めると思います。
中山間地の私たちが決意しているのは、その間にも出来る限り被害に遭わないよう、出来ることは何でもするということです。
何しろ、命が懸かっているのですから。