通信:「獏の空の下から・・・」11号 2002年6月より抜粋
昨年の暮れ(2001年12月)、念願の室内トイレが完成し、使えるようになりました。
我が家にたずねて来られた方は、皆さんご存知のはずですが、これまで我が家では用足しは屋外で「タルトイレ」というものを使っていました。
どういうものかと言うと、まずトイレ用にとたん葺きの粗末な小屋があり、その中にプラスチック製のタルを置き、フタ代わりに板を切り抜いて作った便座をはめて、そこに座って用を足すわけです。
出したものは、その都度本人が畑の脇の決まった場所に捨てに行き、タルは沢の水を引き込んだ用水路できれいに洗って元の場所に戻して置くことになっていました。
自分で出したものを自分で始末して、それが畑の肥やしになって、作物が育っておいしいものがまた口に入る、小さな子ども達にもそれが実感出来て、大変教育的な素晴らしいトイレだったと今でもそう思っていますが、一方、雨の日や雪の日、真冬の寒い夜などはさすがに大変で、家の中にトイレが欲しいと、切実な願いでありました。
そのタルトイレを、13年間使っているうちには、ずい分いろいろな事がありました。
お客様にトイレをかして欲しいと言われた時など、手順をいちい説明する方も大変でしたが、初めてお使いになる方の戸惑いは相当のものだったでしょうね。
それから、思いだす度におかしくて吹き出しそうになるのは、たまたま運悪く真冬の夜半に用足しに行かなくてはならなくなった時のことです。
外は氷点下10℃以下、パジャマの上にセーターとダウンジャケットを着込み、毛糸の帽子まで被るのは良いのですが、お尻だけは丸出しになってしまうのですから、何ともこっけいな格好と言うしかありません。
用を足し終わる頃には、出した物がタルの中で凍り始めています。
タルを洗おうとすると、水路には氷が張っていて、それをガンガン割らなくてはなりません。
でも、澄み切った真冬の空には満天の星、ピンと張り詰めた冷気を吸い込みながら、こんな荒行に耐えられる体の健康をありがたく思うと同時に、逆にこれが健康法になっているかも知れないと思ったものです。
そして、部屋に戻ってまた布団にもぐり込む時、その暖かさを殊さらに嬉しく幸せと感じないではいられませんでした。
また、夜一人で行くのが怖い小さい子には、必ずお付きが一人付いて行きました。
用が終わるまで外で待っている間に、寒くなって自分も立ち小便ということもしばしばでした。
今時、キャンプ場でさえ水洗トイレ完備のところがあるそうですから、私たちが13年間やって来たことは、そうそう望んで得られる体験ではなかったかも知れません。
室内トイレを使うようになって、その快適さにすぐに馴染んでしまいましたが、それでもたまに混み合った時など、外のタルトイレで用を足すと、それはそれで何の違和感もありません。
今はまだ当然かも知れませんが、これからも時々は外で用足しをして、この感覚を忘れないようにしていたいと思っています。