天然酵母パン





おいしそうなパンだと思われた方
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今やすっかり一般に認知された感のある「天然酵母パン」という呼び名。
私も自ら「天然酵母パン」と称するパンを焼いていますが、皆さんがこの「天然酵母パン」というものをどのように理解していらっしゃるのか、最近とても気になっています。
私たちは、たいてい「天然」とか「自然」という言葉に良いイメージを持っていますので、「天然」「自然」を冠した名称に、何となく好印象を抱いてしまいます。
もし、明確な定義や正しい理解がないままに、「天然酵母」や「天然酵母パン」という呼び名を使い続けていると、いずれ必ず足元をすくわれることは間違いないと考えています。
そう思って、インターネット上に氾濫している「天然酵母」「天然酵母パン」に関する情報を手当たり次第に閲覧していますが、残念ながら、ちゃんと説明出来ている論説には未だお目にかかれません。
逆に、「天然・・・」の名称に批判的な論説の方が、説得力があるような気さえします。
ここで少なくとも食工房の天然酵母パンについて、私の持論を申し上げておく必要があると感じました。


 「天然」の前に、そもそも「酵母」とは?

酵母は、糖(ブドウ糖、果糖などの糖分)を分解して、水と炭酸ガスとアルコールなどを生成する微生物です。
自然界に普遍的に生息しており、それを私たちは醸造やパンづくりなどに利用しています。
自然界に生息している酵母を、いつでも使いやすい状態に維持管理する方法は、世界中に沢山あります。

 「天然酵母」と「イースト」

本来、酵母は天然、自然の産物なのですから、わざわざ天然の名を冠する必要はありませんでした。
イーストが区別されるようになったのは、第一次世界大戦当時、戦時下のドイツにおいて、短時間のうちにパン生地を醗酵させるために、工業化学的手法によって醗酵環境を管理して、純粋培養された酵母が使われるようになってからです。
それまで酵母の醗酵は、果実や穀物そのものから時間をかけて培養されていたのであり、もし醗酵初期に雑菌が繁殖すれば失敗してしまう、大変扱いの難しいものだったのです。
イーストでは、醗酵力の強い菌株を選び、且つ化学的手法で醗酵のための環境をつくります。
雑菌の繁殖を防ぐためにpHを下げたり、中和したり、イーストの活性を高めるためにイーストフードと呼ばれる薬品も使われます。(現在は、ビタミンC・L-アスコルビン酸が使われていますが、以前は臭素酸カリウムが使われた。※現在は危険であるとして禁止)
イーストは、酵母の醗酵過程の中の炭酸ガスを発生するところのみに着目して開発されたものであり、単純に膨らめばいいという発想です。
しかしパンの風味は、自然な状態で醗酵が始まり、時間をかけて熟成して行く過程で醸し出されるものなので、イーストを使うことにより、それまでの風味豊かなパンは造れなくなってしまいました。

その後の時代、食品製造が次々と工業化されて行く中、その利便性ゆえ、イースト使用はパンづくりの主流になりました。
その一方で、パン食文化の層の厚いヨーロッパでは、伝統的な直接天然に由来する酵母を使うパン屋が生き残り、最近になればなるほど見直されているという状況です。

 威儀を正しておかないと・・・

さてここで、少なくとも私が「天然酵母」という時の「天然」とは何かということを申し上げておかなくてはなりません。
それは、あらゆる化学的プロセスを排除し、直接天然、自然に由来する醗酵過程を踏むことであるということです。
世の中には、定義も曖昧なまま「天然」「自然」の名を冠することに、不快感を露にする人々が少なからずいるということを承知して威儀を正しておかなければ、いずれ「天然酵母パン」という名称は使えなくなるかも知れない思っています。

※食工房の自家培養酵母についての記事があります。
ご参照いただければ幸いです。
<こちら>からご覧いただけます。