味と香りは別物ではないと、いつも思います。
おいしいものは、先ず鼻に来ると言われますね。
その通りだと思います。
ところが最近、どうもこの香りがいかにも偽物っぽい食べ物が多くなったような気がします。
私は、以前からずっと自然志向で暮らして来ましたから、人工的な香料の放つ香りを心地よいと感じたことは、ほとんど記憶にありません。
食べ物ではなおさらで、香料で香りつけしたものと、自然の素材の持つ香りの違いは、言われなくたってはっきり分かります。
例えば、手づくりした文旦ピールのあの香りを覚えると、人工的な柑橘系の香料なんか、不快に感じるほど嫌になってしまいます。
ま、それはそれとして、人はこの香りに意外に騙されやすい側面があるのですね。
冷たい水に、少量の食塩を溶かしたとします。
ほとんど何の匂いもしません。
ところがこれにバニラオイルを一滴落としてかき混ぜます。
するとどうでしょう。
何か甘い味のする飲み物に思えて来るから不思議です。
でも口に入れた途端、まずくて吐き出すに違いありません。
それを、小麦粉と炒り玄米粉と植物油などを混ぜ合わせて生地をつくり、薄く延ばして焼くと、皆さんよくご存知の「パタポン」です。
ノーシュガーでも、微妙に甘みを感じます。
それはもちろん、小麦粉や炒り玄米粉がわずかに甘みを持っているからですが、バニラオイルの香りがとても重要な役目を果たしていることを、お分かりいただけると思います。
あともう一つ、少量の塩分が逆に甘みを引き立てる性質があることも、ご存じだったでしょうか。
こんな風に食工房ではいつも、自然の素材が持つ香りを積極的に利用して、味わいにパフォーマンスを持たせる工夫をしています。
スパイスワークは、食工房の決め技というわけですが、こればかりは全てをご披露するわけには行きません。
それからこれが一番肝心なことですが、こうした小細工も主たる原材料の品質が背景にならないことには、何の役にも立たないということを、最後に申し上げたいと思います。