日別アーカイブ: 2007年8月9日

食パンの思い出



角食パンを仕込んでいる時、毎回条件反射のように思い出していることがあります。
それは、私が子どもの頃、よく父が大きな食パンの塊を買って来ていたことです。
私が育ったのは四国の山奥の小さな村で、父は製材所に勤めていました。
月に二回、営業のため木材市場のある、香川県の多度津という町へ出張していましたが、いつも大きな三斤の塊の四角い食パンを抱えて家に帰って来ました。
思い出す限り、我が家はどうもパン好きの家庭だったらしく、この三斤食パンを楽しみに待っていたことを覚えています。
当時の父の収入などを考えると、この食パンはかなり奮発して買っていたはずです。
また、パンにつけるバターやジャムなども、大抵いつも家にありましたが、これは母方の親戚が食品卸販売会社に勤務していたおかげだったようです。
夜遅く父が帰宅して、その食パンを目にすると、夕食が終わった後でも、とにかく一切れ食べたくなったものです。
しかしそれも、勤めていた製材所の廃業による父の失業で、途絶えてしまいました。
やがて村の中にもスーパーマーケットが進出し、食パンはいつでも買えるようになった代わりに、何の感激もなく美味しくもなくなってしまいました。
そして今度は、息子の私が今頃になってパン屋を始めたというわけです。
時々思うのですが、当時のそのパン屋さんは、毎月二回決まった日に、三斤食パンを一本買いに来るありがたい客を、きっと覚えていたことでしょう。
食パンがきれいに四角く焼けた時はいつも、今は亡き父を想いながら、「さあさあおいしいのが焼けたよ!買いに来てよ。」と呟く私です。