春の頃、そこは桜の花の咲いている様子があまりに美しくて、とても気になっていたのですが、何となくいつも遠目に見ながら通り過ぎていました。
それが今日は、出かける前からその場所のことを思い出し、立ち寄ってみようと決めていました。
用事が終わって帰り道、少し脇道に逸れて車を止め歩いて近づいて行くと、思った通りそこは小さな公園でした。
でも、あまり人が訪ねている様子はなく、生い茂った樹木の下は薄暗く、下草も少し伸びていて何となく荒れているように見えました。
静寂が支配し、霊気が満ちているような感じが漂っているのが、私には分かりました。
まず最初に大きな石碑が立っているのが目に入りました。
多分このあたりの、開墾あるいは灌漑水路の竣工を記念する碑だろうと思ってさらに近づくと、「戦没者」の文字が目に飛び込んで来ました。
そしてそこには、多数の太平洋戦争の戦死者の名前が刻まれてありました。
そうか、忠魂碑だったんだ・・・。
私はそうとは知らずに、裏手の方から入ろうとしていたのでした。
道理で何か違う気配を感じるはずだと、納得しながら薄暗闇の中へと足を踏み入れました。
日頃、あまり顧みられることのない場所なのか、そこは違う時間が流れる異空間のように、私には感じられました。
薄暗闇の中から木立のすき間に見える外の景色は、夕方だというのに妙に明るくまるで別世界のようでした。
そうか・・・、今日からお盆に入ったんだもの・・・。
呼ばれちゃったのかな、と思いつつ写真を撮らせてもらって、そっと立ち去りました。
この次は、何かお供えするものを持って、もう一度訪ねようと決心する私でした。