おいしいコーヒーのいれ方(淹れ方)と題する情報は、それこそ数えきれないほど沢山流布されています。
どれもそれなりに説得力を持って響いて来るのですが、果たしておいしいコーヒーの真実はどこに・・・。
さて、食工房でもこれまで度々、コーヒーの抽出についていろいろとご説明申し上げて来ましたが<参照>、今回は最も一般的に使われているペーパーフィルターについて、科学的にもう一歩踏み込んで解説してみたいと思います。
ご存じのようにペーパーフィルターは、ドリッパーと呼ばれる器具にセットして使います。
抽出量(人数分)に応じて大きさと容量が決まっており、フィルターとドリッパーは、適合するものが必ずセットになっています。
カリタ 103 4~6人用 ドリッパー
写真は、広く出回っているカリタ式のドリッパーです。
安価で一般的なプラスチック製のもの、またプラスチックに不安を感じる方には、ちょっと値が張りますが陶製のものもあります。
この形状や出っ張りの付け具合には、沢山のノウハウが詰まっているはず。
ご覧になって分かるとおり、内側には筋状の出っ張りが付けられています。
この筋状の出っ張りは、実はとても重要な役割を果たしています。
この次、実際にコーヒーを抽出している時の様子を、動画に撮りたいと思っています。
写真は、ドリッパーに適合するペーパーフィルターをセットして、水で濡らしたところです。
水に濡れたペーパーフィルターは、ドリッパーの壁面にくっつこうとしますが、筋状の出っ張りがあるため壁面から離れて隙間が出来ています。
くっついているように見える部分にも、実は毛細管現象で水がたまっています。
抽出時に、コーヒー粉と湯で満たされた状態でも、この隙間は幾分狭くなるものの保持されています。
ここが非常に重要なポイントです。
もし、この筋状の出っ張りがなく、のっぺりとした平面だったらどうでしょうか。
ペーパーフィルターは、ペッタリと壁面にくっついてしまいます。
フィルターを通り抜けたコーヒー液は、壁に当たって行き場がありません。
穴の開いている底の部分のみが出口ですから、そちらに向かって圧力が集中し、非常に抜けが悪い状態になります。
ドリッパーは、単にペーパーフィルターを保持するだけが役割なのではありません。
筋状の出っ張りによって生じた隙間、つまり細い管の中では、重力の法則に従って落下する力と、毛細管現象によって留まろうとする力のバランスによって、抽出速度が速くなり過ぎないように調節されるのです。
当然、ペーパーフィルターのコシの強さや繊維の目の粗さも、デリケートに影響します。
そのメーカーの専用のペーパーを使うよう推奨するのにも、一理あるというわけです。
この筋状の出っ張りの高さと間隔は、開発者のノウハウの結晶だろうと想像します。
ネルドリップについても、触れないわけには行かなくなりました。
ところで、ネル(布)フィルターの場合だと、フィルターはリングで上端が固定されているだけで、空中に吊り下げられた状態です。
フィルターを通り抜けたコーヒー液は、自由空間に解放されることになりますから、抽出速度は主にフィルター自体の通過抵抗によって決まります。
紙も布も同じ一重のろ過装置だと思っていましたが、動作のメカニズムはかなり違うものだということが分かります。
さて、このような基本的物理的メカニズムを理解しておけば、あとはそれをどう活かすか、それは自分次第ということになりますね。
また機会を改めてこの次は、ろ過のメカニズムに迫ってみたいと思います。