昨日は、新潟からお客様がいらっしゃいました。
ご夫婦で見えたのですが、奥様の方は「からころ屋」という自然食品店を経営していらして、昔私たちも自然食品の販売を生業にしていたことがありましたので、いろいろと共通の話題に花が咲きました。
お店のことは、ホームページもブログもお持ちだそうなので、そちらをお訪ねいただくとして、一方ダンナさんのお話にとても興味を惹かれましたので、そのお話を紹介したいと思います。
そのダンナさんのお父さんの話です。
残念なことにすでに亡くなられこの世の人ではありませんが、そのお父さんは若い頃からずっとクマ撃ちを生業にしていたのだそうです。
生まれついての狩猟民的感覚を持っていたというお父さんは、木伐り、炭焼き、籠編み、等々、山の仕事は何でも自在にこなしたそうです。
そしてクマ撃ちに行く時、いつも奥さんがこしらえて持たせたにぎり飯を、必ず一つだけ残して持って帰って来たそうです。
一度山に入れば何があるか分からない、いざと言う時たった一個でも残しておいたにぎり飯で命が助かることがあるかも知れないということなのでしょうが、それなら山を下りて里が見えるところまで来たら食べればいいのに、いつも家に辿り着いて囲炉裏の前に座ると、その一個をホイッと奥さんの前に置くのだそうです。
そして奥さんはいつも、「せっかく持たせてやったのに、何故ここまで持って帰って来るんだ。」と決まり文句を言ったそうです。
でもだからと言って、次から一個減らすというわけでもなく、五十年間ずっと最後までそうだったという話です。
モノの豊かな時代にいる私たちが、とっくの昔に失ってしまった狩猟民の心得を持った人が、この同じ日本につい最近まで生きていたことに驚かされ、そしてとてもいい話を聞かせてもらったことに感激する私でした。
photo by Mikio Aoki