阿武隈の山中で暮らしていた最後の数年間、私は写真を撮り続けていました。
被写体は、山の中の植物たちと山の風景。
どうしてお金のかかる写真なんか始められたかと言うと、従兄弟から写真道具を一式もらったからです。
フィルム代と現像代は、事情の許す限りボチボチと。
環境は良かったし時間だけはありましたから、今思うと、プロの写真家でも滅多に巡り会えないようなシャッターチャンスに度々巡り会いました。
ただし腕が追いついていなかったので、必ずしも素晴らしい写真が残っているわけではありません。
私が写し撮りたかったのは、生命そのものです。
大それたことを言うようですが、その時は本気でそう思っていたのです。
美しい写真はプロに任せておけば良いけれど、毎日山の霊気に触れて暮らしている自分には、もっと違った写真が撮れるはずだと。
そんな数年間もあっという間に過ぎて、私は山を下りてパン屋になりました。
決して写真を撮ることを捨ててしまったわけではありませんが、今は生命たちに向き合う時間がなくなってしまいました。
そしてその間に写真もデジタル化が進んで、先日久々にカメラ屋さんに行ったら、フィルムはもう隅の方に少し置いてあるだけという状況でした。
デジタルが悪いとは思いませんが、何と言ったら良いか、心の準備が追いついていないのですね。
それに、デジタル一眼レフは今はまだ到底手が出せないし、もうしばらくカメラは脇に置いておこうと思っています。
では、昔取った写真の中から、好きな一枚を・・・。
獏の空の下から・・・「チゴユリ」