このあたりでは今、ホウの花が次々と咲いています。
ホウの花は形が大きく、とても強い生命力を感じさせます。
そしてこの花が咲き始めると、あたり一面に甘く芳しい香りが漂います。
人里ではあまり良く分かりませんが、深山でこの花が咲いているところに行き当たると、それはもうただならぬ霊気が漂っているのが、私にははっきりと分かります。
以前住んでいた阿武隈の山中で、私はホウの花が咲く頃になると、とり憑かれたように毎日歩き回って、写真に撮れそうなつぼみを探したものです。
何しろ高い木の上に咲いているのですから、鳥にでもならない限り、咲いている姿をそのまま写真に撮るなど出来るわけがありません。
枝を切って下に降ろして撮るという人もいましたが、それでは絶対に写し取れない何かがあるのが私には分かるので、そんなことは出来ません。
この写真を撮った時は、たまたま低い枝が重みでしなって低くなっているところにつぼみが出来たのです。
雨上がりの午後、日差しにうながされるようにそのつぼみが開いたのを見て、私は何かも放り出してその木の下に駆けつけました。
カメラを持って高さが3メートルほどの脚立の上に乗ると、ちょうど目の前に満開のホウの花があり、一面に甘い香りが立ち込めて鼻を突き、頭がクラクラしてこの世から連れ去られるのではないかと思ったほどです。
その時「さあ、私を撮りなさい。」という声が聞こえたような気がして我に返り、夢中でシャッターを切りました。
不思議にそよとも風は吹かず、花はピタリと止まったまま存分にシャッターチャンスを与えてくれました。
その翌年、さらに翌年と、シャッターチャンスを待ちましたが、こんなチャンスは一度で良いのだと悟らせるかのように、それきり二度と満足の行くホウの花の写真は撮ることが出来ませんでした。
月別アーカイブ: 2007年5月
ペタペタ、ペタペタ!
何をやっているかと言うと、天板の上でクッキーの生地を成型しているところです。
これは「ロンサムパイン」という名の、松の実とエダムチーズが入っている塩味のスパイシークッキーです。
重曹と酢を使うベーキング法なので、写真では分かりませんが、とにかく急かされてやっています。
でもこんな一つ一つ、スプーンでペタペタ、ペタペタ形をつくるなんて非能率的なことをやっていては、実際のところ商売にはならないわけなのですが、それでもこの不定形なところがいかにも手づくりという感じで食感もいいので、他にこれに代わる方法を未だに見つけられません。
娘二人に手伝ってもらって三人で手間暇かけても一度に10袋分がやっとで、それ以上は二回に分けてやるしかありません。
食工房のクッキー類の中で、他にもう二種類「山の子クッキー」と「どろんこクッキー」がこの成型法です。
さてもうお分かりかも知れませんが、どろんこクッキーの名前の由来は、どろんこ遊びのようなこの成型法にあるのです。
この次は、「どろんこクッキー」のことを詳しく紹介いたしましょうか・・・。
国産小麦100%
食工房のパンと焼き菓子に使用している小麦粉は、100%国産小麦粉です。
国産小麦は、パンづくりには適さないと言われ価格も高いので、国産小麦粉を使うパン屋は本当に少数派です。
現在、日本の小麦自給率は10%台で、ほとんどを輸入に頼っています。
そんな中、輸入の際船積み時に使用されるポスハーベスト農薬が、最終製品であるパンの中に残留していたことがあり問題になりました。
また、米と並んで主食として重要な地位にある小麦の自給率がこれほど低いのは、食料政策上明らかに良くないことじゃないでしょうか。
国産小麦は、グルテン度が低くて生地にコシがなく、膨らみが悪いとか食感が悪いとか、いろいろなことを言われるのですが、風味という点では絶対に輸入小麦の追従を許さない優秀さがあると、私は思っています。
食工房では、岩手県産の「南部小麦」と「ゆきちから」の二種類の小麦粉を使っていますが、例えば食パンではモチモチとした弾力のある食感が好ましいと思いますし、しっかり中身が詰まっていて食べた時に満足の行く質量感があり、そして小麦という穀物のおいしさを味わうことが出来ます。
皆さんが、もっもっと国産小麦を評価していただけるよう、本当においしいと言われるようなパンを造るために、毎日努力しています。
地粉角食パン
「地粉」とは、内地つまり国内産の小麦の粉という意味です。
酵母種も生地も同じ小麦粉で造りますので、正真正銘国産小麦粉100%のパンです。
通常食パンに使用される油脂分も入れていません。
東北の穀物のおいしさがストレートに味わえるこの食パンは、和食洋食を問わずどんな惣菜、汁物と一緒でもおいしく召し上がれます。
カレンツとクルミ入りスコーン
食工房のスコーンは現在二種類あります。
一つは、前に紹介したバターとミルク味のプレーンスコーン、そしてもう一つがカレンツとクルミ入りスコーンです。
カレンツは、レーズンよりもずっと小粒のドライフルーツで、スグリの一種です。
レーズンより甘味、酸味ともに濃厚で、とてもおいしいドライフルーツです。
クルミは、一度軽くローストして渋皮を飛ばし、フードプロセッサーで粗砕きしています。
面白いのは、重曹と酢を使う手法でやると、重曹の働きでクルミの渋がきれいに抜けてくれることです。
とてもやわらかい味になります。
油脂分は、バターを使用せず、オリーブ油(バージンオイル)と菜種サラダ油を使っています。
卵もミルクも使いませんので、このスコーンは植物性でノンアレルギー仕様になっています。
ところで、このところ気温が上がって来て、作業場が暑いくらいになって来ました。
こうなると、重曹と酢の反応速度が速くなるので、生地を仕込む時はものすごく時間に追われます。
今はまだいいのですがもう少しすると、生地が触れる道具や作業台もすべて氷を使って冷却しなくてはなりません。
パイルームなどの設備が整っていれば言うことはありませんが、うちの今の状態では全く望みようもないことです。
まあそれでも、もう三度も暑い夏をこうして乗り切って来ていますから、この夏もスコーンの出来が悪くなることはないでしょう。
カレンツとクルミ入りスコーンは味が濃厚なので、ハーブティーとすごくいい相性です。
もちろんコーヒーでもいいのですが。
ちなみに、カレンツ入りのスコーン、クルミ入りのスコーン、それぞれいくつか見かけましたが、両方入ったのはありませんでしたね。
食工房オリジナルです。
やっぱり忙しい木曜日
定休日明けということもあって、どうしても木曜日に仕事が集中してしまいます。
最近はそれが一週間のリズムになっていますので、水曜日の午後当たりからしだいにテンションが上がって来ます。
明日は、月一の会津若松方面に配達の日なので、今日はなおさらでした。
早朝にトースト一枚とコーヒーを腹に入れただけで、とうとう夜まで食事が出来ませんでした。
オーブンの余熱で暑いので、今日はやたらにのどが渇いて水をガブガブ飲んでいました。
それでも体が動くことはありがたいです。
ちょっと配達にも出ましたので外の空気も吸えたし、もう少し残っている明日の準備を終えれば今日も終わりです。
今日は、忙しかった自分に癒しの一枚を選んでみました。
物語の中のコーヒーもまた・・・
All Illusts by Machiko Aoki
文学の世界でも、コーヒーは様々な役割を演じます。
ノルウェーの児童文学作家、マリー・ハムズン作の「小さい牛追い」という物語の中で、ギュドブランドという名のコーヒー好きのおかみさんが登場します。
このおかみさん、コーヒーが切れると機嫌は悪い、仕事ははかどらない、それはもう大変なことになってしまいますが、一杯コーヒーが飲めるとなったとたん、いわく「日に照らされたバターのようにやわらかく、なめらかになり・・・」上機嫌で干し草を広げる仕事を片づけます。
またある時は、・・・ギュドブランドは機嫌が悪くなり、だまりこくってよく一人でどこかへ行くようになりました。
このごろは、小さいお茶碗に一日二杯きり飲めないのですから、そんなことで、どうしていい機嫌でいられるというんです?・・・。
いやはや何というコーヒー好きのおかみさん・・・!
物語の中では、このおかみさんは後にコーヒー店を開くのです。
その時反対する夫に向かって言った言葉がふるっています。
「だけど、どんなに時世が苦しくったって、人間はコーヒーをのまずにゃいられませんからね!」
そしておかみさんのコーヒー店は大繁盛するのです。
またもやフィンランド!
この物語の作者ハムズンはノルウェーの人で、物語の舞台もノルウェーなんでしょうが、実は北欧諸国は世界の中でも有数のコーヒー消費地なのです。
そしてここでまたもやフィンランドが登場するわけです。
何と、国民一人当たりの年間コーヒー消費量が世界一!
うーむ、恐るべしフィンランド!?
一体どういう国なんでしょう・・・この国は。
まだまだ、まだまだ、フィンランドへの興味は、そして北欧諸国への興味は尽きません。
それぞれの平和運動
世界の平和を願わない者はいない。
そう言うと、多少の異論があるかも知れませんが、今ここでそんな議論をしようというのではありません。
どうしても、私たちは平和を願わないわけには行かない、私はそう思います。
例えば、お金と引き替えに物が買えること、交通機関を利用して好きなところに行けること、朝、家を出て行った家族に夕方再会出来ること、こんな当たり前のことも、世の中が平和であり人々の善意が信じられるという前提がなかったら成立しません。
戦時下に置かれた国では、そんな当たり前のことでさえ何の保証もないし、それどころか今日、たった今の命さえ保証の限りではありません。
だから平和は大切、そう思いませんか。
平和を守るためにいろいろな方法があるのだと思いますが、私は日々の暮らしがそのまま一人一人の、それぞれの平和運動となるような過ごし方を考えること、先ずはそこからだと思っています。
英国スコットランドの、フィンドホーンコミュニティーの創立者の一人、アイリーン・キャディーがこう述べています。
「世界が平和であるためには、一人一人の心の中が平和でなくてはならない。」
WALK9 のこと
今ちょうど新潟から福島への道を、平和を願って巡礼の旅をしている方々が歩いています。
明日の夜には、我が山都町で一泊されます。
ご存じなかった方、以下にご紹介するサイトをご覧ください。
私も、明日皆さんにお目にかかろうと思っています。
WALK9 のホームページ http://walk9.jp/index.html
狩猟民の心得
昨日は、新潟からお客様がいらっしゃいました。
ご夫婦で見えたのですが、奥様の方は「からころ屋」という自然食品店を経営していらして、昔私たちも自然食品の販売を生業にしていたことがありましたので、いろいろと共通の話題に花が咲きました。
お店のことは、ホームページもブログもお持ちだそうなので、そちらをお訪ねいただくとして、一方ダンナさんのお話にとても興味を惹かれましたので、そのお話を紹介したいと思います。
そのダンナさんのお父さんの話です。
残念なことにすでに亡くなられこの世の人ではありませんが、そのお父さんは若い頃からずっとクマ撃ちを生業にしていたのだそうです。
生まれついての狩猟民的感覚を持っていたというお父さんは、木伐り、炭焼き、籠編み、等々、山の仕事は何でも自在にこなしたそうです。
そしてクマ撃ちに行く時、いつも奥さんがこしらえて持たせたにぎり飯を、必ず一つだけ残して持って帰って来たそうです。
一度山に入れば何があるか分からない、いざと言う時たった一個でも残しておいたにぎり飯で命が助かることがあるかも知れないということなのでしょうが、それなら山を下りて里が見えるところまで来たら食べればいいのに、いつも家に辿り着いて囲炉裏の前に座ると、その一個をホイッと奥さんの前に置くのだそうです。
そして奥さんはいつも、「せっかく持たせてやったのに、何故ここまで持って帰って来るんだ。」と決まり文句を言ったそうです。
でもだからと言って、次から一個減らすというわけでもなく、五十年間ずっと最後までそうだったという話です。
モノの豊かな時代にいる私たちが、とっくの昔に失ってしまった狩猟民の心得を持った人が、この同じ日本につい最近まで生きていたことに驚かされ、そしてとてもいい話を聞かせてもらったことに感激する私でした。
photo by Mikio Aoki
画面と紙面
ブログを書き始めて一ヶ月半余りになりますが、見るだけの立場から見てもらう立場にもいるようになり、webに対する感覚も少し変わりつつあります。
私は、もうずっと以前から個人的な印刷物を発行していますが、インターネットの時代の幕が開き、ホームページやブログを使って誰でも簡単に、しかも整った体裁の情報を発信出来るようになった今でも、一方で紙に印刷されたものの価値が減ずることはないと思っています。
画面と紙面のどこが違って、どこが同じか・・・、これはwebデザインを考える時にすごく重要なことなんだろうと思います。
今まで単純に、紙に印刷された情報には集中して向き合える、画面に表示されている情報は落ち着いて見られないと思っていましたが、そうでもないんじゃないかと認識が変わりつつあります。
さて皆さん、大抵のweb情報画面には、主題情報の他に実に沢山の情報が混在していますね。
メニューバー、ツールバー、タスクバーの他、コンテンツ、リンク、広告などなど、まさに情報の満艦飾です。
極々実用的な情報ならそれでも構わないとも思いますが、じっくり内容を読み取ってもらいたい情報、何かをイメージしてもらいたい情報を伝えようとする時は、不要なあるいは邪魔になる情報は極力置かないようにした方が、絶対に効果的なはずです。
印刷物は、最初から考えられたレイアウトで完結していて、不意に広告がポップアップするようなことは起こりませんから、集中しやすくて当然なわけです。
それでもちょっと考えてみてください。
もし一度に沢山の、それも色とりどりの興味を引かれるパンフレットを受け取った時など、やっぱり落ち着いて向かい合うという態度にはなり難いんじゃないでしょうか。
webの画面は、言ってみればずっと連続してその状態にあるようなものですね。
逆に考えれば、じっくり見てもらうための画面も作れるということになるはずです。
私はまだまだネット初心者ですが、それでも自分のブログを始める時に、読みやすい文字の大きさが選べることと不要な情報が少ないことを条件に、けっこういろいろ悩んだものです。
今までいろいろ見た中には、とても良く出来ているなと思うサイトもいくつかありましたが、自分で作るとなると、とてもじゃありませんがノウハウが足りません。
お金を払って専門家にデザインしてもらうほどのことでもないし、これからせいぜい楽しみながら少しずつ勉強して行こうかなと思っています。
All Illusts by Machiko Aoki
シナモンロールとノルディックルーツミュージック
映画「かもめ食堂」が静かなブームになり、少し前の話ですが50万人の人が映画を見たとか。
今はもっと人数が増えたことでしょう。
フィンランドという国のことも、いろいろな方面で注目を集めているようですね。
フィンランドびいきの私たち(私と二人の娘)としては、やっぱりうれしいことです。
今日は、食工房でもシナモンロールを焼きました。
細かいところは違っているかも知れませんが、形は映画で見たとおりに真似ています。
これが焼ける時のにおいは、もうたまりません。
砂糖が焦げるカラメルのにおいとシナモン、カルダモンの香りが混ざり合って、もうすっかりヘルシンキの「かもめ食堂」の店内にいる気分です。
とは言え私、行ったことはないのですけれど・・・。
そんなわけで今日の休憩時間には、焼き立てシナモンロールとコーヒーでさらに気分を味わいました。
さて、ここでまた皆さまをノルディックルーツミュージックの世界へお誘い申し上げましょう!
今回のおすすめは、国立の民俗音楽集団 TALLARI です。
今から21年前に結成されたこのバンドは、4人の常駐メンバーに女性の歌い手が1~2名加わって活動しています。さらにゲストが加わることもあるようです。
国立と言うからには、ちゃんとそのための予算も計上されていて、CDを作る時にも予算を取って製作するそうです。
さぞかしお堅い音楽集団で、演奏もお堅い内容かと思いきや全然違うんですね、これが。
国が、こういう音楽やミュージシャンを支援しているフィンランドという国と、国民の方々を私は掛け値なしに尊敬してしまいます。
うーん、ここで音をお聴かせ出来ないのが残念でなりませんが、お店に来られる方にはいつでもお聴かせ出来ますので、ご来店の折にお声をかけてください。
CDが出ていますのでとりあえず2枚ご紹介申し上げます。
ただし、一般のCDショップでは手に入らないと思います。
Kymmenen pennin ryyppy 「10ペンニのお酒」
Komiammasti 「コミアンマスティ」
ネットでいろいろ検索していますが、CDを買えるサイト、試聴出来るサイトをまだ見つけられません。
ちなみに私の手元にあるCDは、知人から寄贈いただいたものですが、今、日本では手に入らないのではないかと言う話しでした。
ノルディックルーツミュージックの関連サイトは、4/1の記事をご覧ください。